切なさに翳む胸
遠くから来る別れ
静かな朝の
制服のスカーフを
きつく結び
泣き笑いしながら
飛び立つ小鳥を
見送る人達の
あたたかな
まなざし
さようなら
さようなら
次の空はここよりも
高くて広い
空ですか
花の行方を
風に問う
いのちの行方を
空に問う
今日の行方を
宵に問い
哀しい胸を
黙らせる
白紙の答えを握り締め
ひとは
どうして行くのだろう
ちいさな人がするように
小首を傾げて
すがる目で
ゆるり
ゆらり
ゆらめく
ゆらら
ゆるら
ゆれてる
ゆるるららら
光が
君を
なでる
君に
とける
そして
君は
ゆるやかに
ゆるり
ゆらら
春を
こぐ
私が夢に見ていたものを
あなたは持っていました
だから私は
あなたになりたい
そう思いました
けれどここが重要なところ
私は私のままで
あなたになりたかったのです
あなたになった私は
私ではなくなる
私を捨て切れなかった私は
そのかわり
夢を見ることを
やめてしまいました
けれど
夢をあきらめた私こそ
もう私では
ありません
私でも
あなたでもない誰かが
今日も窓辺で
ひとり
詩を書いています
陽だまりに背を丸め
あの人が新聞を読んでいた
埃舞う 窓越しの景色は
水彩画の淡い冬
あの人の背中に降り積もる
見えないあれはなんだろう
あの人の頭に
ぽつりぽつり混ざり始めた
銀色の髪の毛を
私はぼんやりと見つめている
寄り添って
背中におでこをくっつけても
あの人は微動だにせず
あたたかな体温だけが
やっとのことで物語る時の流れ
「ごめんね いままで」
ふいに涙ぐみそうになって
零れた言葉に
あの人は
「くふん」と鼻を鳴らした
「ありがとう」 は出てこなかった
ただ
夫とふたり
とけていたいと思う
冬の陽だまり